［戻る］
旅行中のちょっといい話
黄山（ホアンシャン）の話
中国では、「この山に登ったのなら、もう他の山には登る必要はない」とまで言われる黄山。中国人に中国の見所を聞くと、必ずと言っていいほど、「ホアンシャン（黄山）」という名前があがる。
中国に来て最初に乗ったバスの中で、通路をはさんで隣に座っていたおばちゃんが、自分が読んでいるいるガイドブック（地球の歩き方）を珍しそうに見ているので、しばらく貸してあげることにした。表紙に『中国』と書いてあるのを見て、
「キャー、この本見て、『中国』だって」
と面白がっていた。
最初は何が面白いのかわからなかったけど、よく考えてみると、日本に『日本』という名のガイドブックがないように、中国にも『中国』という名のガイドブックはないから、それが珍しかったようだ。
パラパラとページをめくっていたそのおばちゃんも、『黄山』のページでピタッと手が止まり、
「黄山、行ってみたいわね〜」
みたいなことをみんなでワイワイと言い合っていた。その時点で、自分のこれからのルートの中に、『黄山』の２文字がしっかりと刻まれていた。
上海で『上海雑技団』を見て感動した後、高速バスで南へ３時間、杭州へ向かった。
１３世紀にこの地を訪れたマルコポーロが、「世界で最も美しく華やかな街」と絶賛した町だ。その中心にある西湖は、かつての春秋時代、『孫子の兵法』で有名な孫武が活躍した時代の、美女西施にちなんで名付けられた湖で、夜になると緑色の街灯が対岸までぐるっと湖を囲むように灯り、幻想的な雰囲気だ。そんな中、のんびり散歩をするカップルの姿も多い。
望湖賓館というホテルの展望レストランでは、料金は高めだが（それでも８００円くらい）、西湖を眺めながら食べる杭州料理は最高だ。レストランでは生演奏をやっていて、中国の弦楽器の音色と、外の景色が見事にマッチして、
「あぁ〜、中国だぁ〜」
という気分になりながら、優雅な時間を過ごせた。
その杭州から、内陸に向けてバスで７時間行くと、黄山市に到着する。市の中心部屯渓（トンチー）には、『老街（ラオジオ）』と呼ばれる旧市街があって、明代、宋代の古い街並みが残されている。歩いていると、なんともいえない懐かしい気持ちになる。中国人じゃなくても懐かしく感じられるのが不思議だ。
黄山がある（風景区）は、そこから６５ｋｍ離れたところにある。天都山荘という宿（シングル１００元）に泊まり、次の日さっそく黄山に向けて歩き出した。宿から登山口まで１時間ほどかかる。あいにくの曇り空だったが、黄山に限っては、晴れているよりも曇っていたほうが雰囲気が出る。山道を登るにつれて、写真でしか見たことがなかった黄山の光景が見えてきて、息が切れるのも忘れるほどに興奮状態だった。雲海の中からニョキニョキと突き出る奇岩、今にも仙人が現れそうな雰囲気だ。
中国有数の観光地だけあって、人の数はすごく、山道が全部人でつながっているような感じだ。山頂には２０人くらいが休めるスペースはあるが、次から次へと人が登ってくるため、先に着いた人は、
「まだ行きたくねぇ〜」
と思いつつも、押し出されるようにして無理やり山を降りることになる。
景色は素晴らしいけど、じっくり観賞することができないというのが、難点といえば難点だ。笑
黄山の後は、陶磁器で有名な景徳鎮へ向かった。黄山からバスで６時間。
白い陶器に青色で模様が書かれた壷。日本でも中華料理店などでよく見かけるが、あれが景徳鎮の陶磁器だ。町には至る所に陶磁器が置かれていて、
「景徳鎮に着いたら、とりあえず陶磁器を見に行こう」
と思っていたその目的は、何もしなくても達成されてしまった。「作りすぎだよ」って思うほどに置いてある。
陶磁器で有名とはいっても、観光客が訪れるような町ではないので、日本人はとても珍しがられる。
インターネットカフェで日本語入力していても、すぐにギャラリーができて、この時は５人ほどが後ろで見ていたが、パソコンに平仮名を打てるということ自体が彼らにとっては珍しく、さらに平仮名の一部がパッと漢字に変換されたりすると、
「おぉ〜」
と、どよめきが起こる。
（そんなに面白い？）
と思いつつメールを打っていたが、あまり漢字を多用すると彼らに内容がわかるため、不自然なほどに平仮名だらけの文になってしまった。(このメールを受け取った人は、「こいつ国語苦手だな」と思ったことだろう）
隣でインターネットをしていた人も、興味深そうにこっちをチラチラ見ているので、
「ニーハオ」
と声をかけると、紙とペンを出して筆談が始まった。
彼女の名前は「最（ニー）」といって、英語も少し話せるようだ。
「日本のどこから来たの？」
と聞くので、
「京都」
と紙に書くと、
「’京’と、’都’と、同じ意味の字を二つ並べるのはおかしい」
みたいなことを言っていた。
（おかしいと言われても・・・今さら変えるわけには・・・）笑
インターネットカフェを出た後、最さんに近所の友達の家に案内してもらって、もう一人の友達と４人で、しばらく雑談していた。言葉が通じないはずなのに、ちゃんと会話が成り立っていたのが不思議だ。
「よかったら晩ご飯、うちで食べていけば？」
って誘ってくれたが、この時は風邪で全身がだるくて、断ってしまった。
もし行っていれば、まだまだおもしろい話をたくさん聞けたことだろう。（と思うと悔やまれる・・・）笑